Witness1975’s blog

サイゴン特派員 ジャーナリスト近藤紘一氏(1940-1986)について

近藤紘一コラム

記憶、或いは希望の話

筆者あるいは読者の視覚 最近、新潮文庫版の「ヘミングウェイ全短編」を読み、その作品は評判どおり優れたものだと感じた。ヘミングウェイは「視覚型」の作家だと、作家の吉村昭が書いていたが、描写される風景が鮮やかにイメージされるように思われ、その意…

発掘されるもの

採掘 2000年代に入って各家庭にパソコンが普及し、インターネットによる情報収集が当然のこととなったのは、周知のとおりである。そうした時間的制約を背景として、インターネット上の情報は、大まかにいえば新しいものに限られている。つまり、web配信など…

遥か9,710キロ

Life is very short 近頃、書きたいことがなくて困っている。人類の長い歴史を鑑みて、マスクなんぞしなければ外も出歩けない、というのは一過性の事象に過ぎないと思うものの、短い人生の中の1年、2年というのもあまり短い時間でもない。今は誰もが、何かを…

サイゴン陥落の日に

Time Flies Like an Arrow 気が付けば月日は流れ、4月が過ぎ去っていることが常である。毎年、仕事にかまけている間に、サイゴン陥落の日は過ぎ去っている。今年、辛うじて私にこの日が来たことを知らせたのは、以前にも紹介したことがあるNHKアーカイブスの…

Coup d'État ミャンマー軍事クーデター雑感

クーデター (Coup d'État=国家レベルにおける突然の行動)権力者側の一派が武力などの非常手段によって政権を奪うこと。【三省堂 新明解国語辞典】 政府の一部の勢力が,政権を全面的に奪うため,あるいは権力拡大のために,秘密裏に計画を進め,武力行使…

「本居宣長」について2

本居宣長を読む 小林秀雄の「本居宣長」をついに読了した。ついに,というのも,購入してから既に数年が経過しているからだ。一度最初から最後まで読んだだけのことで,内容を理解したかと言えば,それは随分怪しいと言わざるを得ない。 あえて激しい物言い…

掬うもの

奇跡の季節感 季節がすっかり冬となっても,どうにも季節感に欠けているように感じるが,それは私だけの感覚でもないようだ。「今年は山下達郎を聞かないな」という人に続けざまに出会った。それは彼らが,人の集まる場所に出向いていないだけかもしれないが…

スファヌボン・パテト・ラオの夏

私は,旅が好きだ。 沢木耕太郎流に言えば,軽度ではあるものの,旅という病にかかっているのかもしれない。この数か月,何度「旅に出たい」と思ったことだろうか。思い立ったが吉日,とばかりに家を出ることができないのは,「枷」である。 プライベートジ…

目的論

パソコンを買った話 私のブログの更新を阻む最大の障壁は,パソコンの起動速度だと思っていた。唸りをあげながら,起動するのを待つこと数分,といったことをたびたび繰り返し,無駄な時間を過ごしているのではないか,という思いは次第に強くなった。 昨今…

コロナの終息する頃には

45回目の陥落 今年も、サイゴンが陥落してしまった。なんだかんだと、4年くらいは言い続けている。例年4月は忙しく、例えばサイゴン陥落の10日前から、近藤さんの文章を元にカウントダウンしながら記事を書こう、などという取組も実現できずにいる。それに、…

常識を持って赴くこと

かつての戦争 己の決意を守ることがいかに難しいか、と思う。月に一度はブログを更新するはずが、いつの間にか季節が移り、世間の情勢も一変している。書かないからアクセス数が落ちる、やる気を失くす、そのようなスパイラルも影響がないとは言えないが、私…

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争

「戦争」とは何か 多くの日本人が思い浮かべる「戦争」は、遠くの国で起こっている戦争か、食糧難に苦しんだ記憶を持つ「当時の子供たち」から語られる第二次大戦末期から終戦にかけての日本の姿だと思う。 「戦争はしてはいけない。」そんなことは至極当然…

イラン情勢が荒れている

情勢は急転する 「すまないが緊急事態だ。大至急テヘランに飛んでくれ」 二、三週間来、小康状態にあったイランの国内情勢が再度急転して、パーレビ王政の行く手が怪しい、このまま一気に革命に突入して、王政が崩壊することになった、という。何というタイ…

ギュウ詰めのスズメ。

鳥が好き 私は、たぶん鳥が好きである。その辺に鳥が飛んでいれば、何の鳥だろう?と思う。スズメ、ヒヨドリ、ハクセキレイ、まあカラスはどこにでもいるが、カッコウ、ウグイス、カワセミやヒタキも何度か見たことがある。 その鳥の名を知らなければ、みん…

迷信

現代の迷信 私達現代人は、迷信などには捉われてなどいないと思いがちだ。しかしながら、私たちの周りには、実に多くの迷信が満ちているのではないか。近藤紘一がレポートしたベトナム戦争では、ベトナム軍兵士が作戦決行日の吉凶を気にするために戦況に影響…

満座に響く声

読書の波 自分の趣味を問われた際は、読書と答えることにしている。しかしながら、私は真の読書家とはいえないのではないか、と思っている。なぜなら、私の読書量には大きな波があり、5冊以上を同時に読み進めて月に10冊読み切ることもあれば、1冊の本が一月…

過ぎ去った季節の魅力

今年もサイゴンが 私はこのブログを書き始めて数年来、この季節に必ず思うことがある。年度初めの4月は忙しく、なかなか筆が進まない。やがて4月は終わりを迎え、それは同時に1975年4月30日のサイゴン陥落から、また一年が過ぎ去ったことになる。「今年もサ…

私の台湾日記③

台湾東部へ (前回のあらすじ) 早朝、台北市内のドミトリーを出た私は、台湾鉄道台北駅から、急行電車「莒光号(きょこうごう)」に乗って台湾東部に向かう・・・ 宜蘭県・花蓮県 私が5年前にスペインを訪れた頃、北部のサンチャゴ・コンポステーラへ向かう…

私の台湾日記②

私の台湾日記 (前回のあらすじ) 台湾に旅立った私は、台湾桃園国際空港から地下鉄MRTで台北駅に降り立った。なぜか、トレンチコートの男が私に近付いてくる・・・ トレンチコートの男は、会話のできる距離まで近づいてくると、「英語はできますか?」と尋…

私の台湾日記①

「古本」と「古書」 今春、所用で群馬県前橋市を訪れた。用事を済ませ、地元の人気店でソースカツ丼を食べると、付近に古書店があるのに気がついた。気まぐれで店内を覗くと、そこには興味深い本の数々が陳列されており、書棚を巡って、楽しい時間を過ごした…

滑走路の暗殺

滑走路の暗殺 物騒なタイトルだが、その書き出しは美しい。 残照のマニラ湾ー。 ロハス通りのレストランのテラスから眺めると、観光ポスターそのままの色彩と構図である。ダイダイ色に燃える海と空、灰色から暗灰色に移りゆくちぎれ雲、その下の部分は海の向…

100℃を超える岩盤

書き出しの動力源 文章を書くにはエネルギーが要る。ただ雑文を書き連ねるだけならば、さほどの事はないかもしれない。しかしながら、多少なり文章校正や、論理の整合性や、話題の完結性といったことをよくよく考慮すれば、容易に文章などは書けない、と思う…

池上彰の見るベトナム戦争

池上彰の現代史を歩く 「第6回 ベトナム戦争 小国はなぜ大国アメリカに勝った?」がいま、放送されている。番組の案内は、以下のとおりだ。池上彰の解説でベトナム戦争が振り返られ、私の知らないこともずいぶん語られている。 テレビ東京 池上特番|テレビ…

随筆

随筆 随筆という言葉をなんとなく読み流していたが、現在では常用外となっている「随う」とは、「従う」と同意であって、文字どおり「筆ニ随フ」ように心に浮かんだことなどを自由な形式で書いた文章をいう。今では、エッセイと呼ばれることが多くなっている…

ルックイースト

ベトナム難民 ベトナム戦争の激化とともに、”ベトナム難民”と呼ばれる人が生まれた。ボートピープルとして、闇の中大洋に漕ぎ出した人も数知れないという。こうした話が完全に過去のものとはなっていない、という一例が過日、産経新聞で報じられた。 2017年…

近藤紘一作品の登場人物

作業の日々 年が明けて約2週間、近藤紘一の著作を眺め続けた。眺めた、というのは一つの作業に特化したためだ。作品に度々登場する人物をまとめることで、何かわかることがあるのではないか・・・という観点で作業を始めたところ、思った以上の時間を要した…

直感から至る道

本を買う。 2018年を迎えてしまった-というのは、地に足が着かないまま、目標も定めず1年を過ごしてしまったという後悔の念に堪えないからである。今年こそは、何かに付けて行動せねばならない、と本を数冊買い求めた。探している時には見つからないものが…

続 はじめないとやる気はでないよ

はじめれば、きっとやる気は出る。 記事を書いたことによって、やる気が生まれたかは疑わしいのだが、1年を振り返るような記事を書いてしまった手前、2017年のことはその年のうちに片付けなければならない心持になったことは確かである。 以下、2017年下半…

はじめないとやる気は出ないよ

はじめないとやる気は出ないよ 誰の言葉か失念してしまったが、これは金言であるだろう。文章も、書き出しの1行さえ書ければ半分完成したようなものだと言った人もある。しかしながら、自転車の漕ぎ出しに最も力を要するように、「はじめる」ということには…

漂流船の行く末

majesticsaigon.hatenablog.jp 陸地 漂流した者、つまり余儀なく家路につくことができなくなった者達の願いは、畢竟「陸に辿りつくこと」でしかない、と思う。 その願いは、帰るべき故郷を持つ者にとっては「家に帰ること」であるかもしれないが、サイゴンが…