パリ協定の意味するもの-Paris Peace Accords-
パリ協定
世界史の授業で私を悩ませたものの一つに、「カール=シャルル問題」があった。これは私の造語だが、16世紀に神聖ローマ皇帝だったカール5世は、国によってシャルル2世と呼ばれ、カルロス1世と呼ばれた。これらが全て同一の人物を指すのだ、ということに気づいた時には、期末テストは終わっていた。
ところで、「パリ協定」と言う用語がある。これは、ベトナム戦争の構造を理解するために必須の用語だが、最近テレビでパリ協定というワードを耳にした方も多いと思う。2015年、地球温暖化等の対策に取り組む「気候変動枠組条約締約国会議」がパリで開かれ、全196ヶ国が参加する「パリ協定」が採択された。このパリ協定とは、国際的な気候変動を論じる際のキーワードなのだ。
また、かつて1954年に西ドイツが主権を回復した際に結ばれた条約も「パリ協定」だった。少なくともwikipediaでは、1973年のパリ協定には「Paris Peace Accords」、2015年の協定には「Paris Agreement」の英訳が付けられている。これらもまた、訳語を巡る問題なのかもしれない。
泥沼の戦争
ベトナムの戦史は長い。1945年8月15日に日本が敗戦した翌月2日、ホー・チ・ミンがベトナム民主共和国の誕生を宣言した。インドシナに復帰したフランス軍との間に、第一次インドシナ戦争が勃発する。ディエンビエンフーの戦いを経てジュネーブ協定が締結される1954年まで抗仏戦争が続くことになる。
ジュネーブ協定では、北緯十七度線に軍事境界線が設けられ、ベトナムは不承不承ながら南北に分断された。フランスが南部から撤退すると、アメリカがすぐに介入して南部にゴ・ジン・ジェムを首班に親米反共政権が発足する。1965年には、アメリカ軍がベトナムに上陸、戦闘に直接介入し始めたが、やがて長引く戦争に嫌気のさしたアメリカは、停戦協定を働きかける・・・
1973年1月27日、パリ協定
「ベトナムにおける戦争終結と平和回復に関する協定」、通称「パリ協定」の内容を簡潔に説明すると、次のようになる。
米国、南北両ベトナム、南ベトナム臨時革命政府の四者により調印された。現状停戦を命じ、ベトナム内部問題の政治解決、報復の禁止、戦後復興への援助などを定めた・・・(「統一ベトナムとインドシナ」より)
四者会談の構図は、次の①及び②のグループと、③及び④のグループに分けられる。
③アメリカ
しかし、①北ベトナムのレ・ドクト政治局員と③アメリカのキッシンジャー大統領特別補佐官との間の秘密会談で成立したこの停戦協定は、④南ベトナムにとって恐ろしく不利な内容であった。
サンケイ新聞サイゴン支局長の任にあった近藤紘一は、この「パリ協定」の発効について、当時の新聞記事に次のように書いた。
ベトナム戦争は、二十八日午前八時(日本時間同九時)終結する。南北ベトナム三千四百万人の悲劇と後輩と憎悪の歴史は、いま閉じられる。(目撃者)
このとき、「公式には」ベトナム戦争が終結したが、現状はどうであったか。近藤さんは、後にこう書いている。
米軍は、自分がかきたてた戦火も鎮めず、しかも大量の北ベトナム軍の南駐留を放置したままこの「協定」によって、南ベトナムから雲をかすみと逃げた。少なくとも多くの南ベトナム人がそう思い、この”裏切り”に激怒した。(サイゴンのいちばん長い日)
ベトナム「欠陥」報道
上記の和平協定が結ばれた後、北の共産軍が南ベトナムに侵攻し、首都サイゴンが陥落したのは、それから約2年3カ月後の1975年4月30日のことだった。
近藤さんと古森義久氏の共著である「国際報道の現場から」で書かれているベトナム報道の問題は、日本の報道と現地の実態での明らかな乖離にあったという。現地に向かう記者は、当然日本で下調べをする。調べるとどのような結論が得られるかといえば、「南ベトナムの民衆は九〇パーセントぐらいは解放戦線、北ベトナムを支持している」ということだ。
「それまで得ていた知識と、現地で膚で感じるものが違う」と二人は感じながら、「その格差を埋める戦い」を続けた。日本で、ベトナムに平和を!と叫んでいた団体は、米軍の撤退を受けて1974年に解散したが、「鉄の塊が南へ、南へと降りていった」のは、それから後の事だったのである。もちろんその進軍は、南北両ベトナムに共通して行われ続けていた「パリ協定」違反行為であった。
隔世の感
結局パリ協定は、「戦争の終結を約束するものでもなく、単に米国がかろうじて面子を保ちながらベトナム戦争から足を洗うため体裁を整えたものに過ぎない」ものだった。そうしてベトナムから撤退していったアメリカが、ハノイで北朝鮮との会談をしたことに、何らかの感慨を持った方達がいるだろう、と私は思っている。
<戦車の踏み込んだ大統領官邸>
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