Witness1975’s blog

サイゴン特派員 ジャーナリスト近藤紘一氏(1940-1986)について

サイゴンのちょっと短い日④(2018ベトナム訪問記)

majesticsaigon.hatenablog.jp

 

1号線を南下せよ

 

 ミンさんのバイクに乗って再び走りだした私は、目的地が定まっていないことに気付いた。どこに向かっているかと尋ねると「メコン・リバー」という。ミンさんにはサンダルを買う際に手持ちのベトナムドンの全てを見せている。払うと約束した10万ドンの範囲内ということで、市の外れの川にでも連れて行ってくれるのだろう、と思った。私はミンさんの向かうがまま、バイクの後ろに跨っていた。

 ミンさんの110ccのHONDA製バイクは、郊外へ向かうトラックやバイクとともにクラクションを鳴らし合いつつ、延々と走る。スピードメーターが故障しているようで、速度は分からなかったがおよそ60キロ程と思われた。

 道路沿いにはフォーやコーラ、鳥の丸焼きを売る飲食店や、農機具屋、仏像屋、携帯ショップなど様々な商店が軒を連ねている。知らない国で、知らない老人の駆るバイクに乗って、知らないところに向かっているのは不思議な感じがした。

 水田の緑が広がっていたり、一方その緑の隣で刈り取りを行っていたりする。これが、メコンデルタの三毛作かと改めて驚いた。年に一度しか収穫できぬ日本の稲作とは感覚が違ってくるのは当然だろう・・・風景を楽しみつつ、バイクで風を受けて走るのは、やはり気持ちよかった。

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  途中の商店でコーラを飲んだ。ベトナムでは、乾杯の事を「マオ・ハイ・バー・ヨー!」と言うらしい。ベトナムのビール「333」を「バーバーバー」というから、「1、2、3、ヨー(?)!」ということなのかもしれない。コーラで乾杯をした。渡されたウェットティッシュで顔を拭くと、砂塵の舞う国道を走ってきた顔は、まさに真っ黒だった。私の顔はかつてこれほど「埃」で汚れたことはあるまい、と思われた。

 

メコン・リバー

 

 ミンさんは私を、ミトーの町まで連れてきた。滞在中、サイゴンの郊外にも一度足を延ばしてみたかった。ミンさんは「たくさんのボートがあるから、写真をとるといい。週末には、サイゴンからもたくさん人が来るんだ」と言った。川沿いに着くと、サイゴン川よりも広大な「メコン・リバー」が広がっていた。

 バイクを停めると、一人のガイドが待ち構えており、日本語で説明を始めた。「あなた専用の船で水上マーケットに行き、作業場を見たり、水上レストランで食事をしたりする」というようなことだった。私はメコンの流れが見られれば十分だったし、そのようなツアーに参加する気はもともとなかったのだが、その値段を聞いて驚いた。2万円だというのだ。

 ミンさんに、金がないのは知っているだろう、と言うと、日本円でも、カードでもいいという。私は断るつもりで予算は2千円しかない、と断固主張したところ、最終的には1時間ボートに乗るだけなら5千円でいい、と言うことになった。

 しかし私は、自宅を出発前に読み返した沢木耕太郎の「1号線を北上せよ」の中で、サイゴン発のツアーに参加すれば1泊付きで同様のツアーが20USドル程度で開催されているのを知っていた。沢木さんがここに来てから15年ほどが経っていることを考慮しても、5千円もの大金を払う気にはなれなかった。30分ほど押し問答をしたが、ガイドの男は最後に「チョット、ザンネン」と言って引き下がった。

 

とんぼ返り

 

 サイゴンにトンボ帰りすることになった。片道75キロを休む間もなく戻るのだ。私も疲れたが、ガイドからのマージンを期待していたかもしれないミンさんにもちょっと気の毒だった。私はフォーを奢り、戻ったらビールを御馳走すると約束した。

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 フォーを食べ終わると、ミンさんはこう言った。

サイゴンに戻ったらお金を払ってもらう。USドルだ。」

 

<⑤に続く>

 

 

一号線を北上せよ<ヴェトナム街道編> (講談社文庫)

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