サイゴンのちょっと短い日⑪(2018ベトナム訪問記)
トンドクタン通り
私は結局のところ、マジェスティックホテルに泊まれることになった。クレジットカードは、ホテルでは有効に機能したらしい。腕時計に目を遣ると、ちょうど12時だった。もっとも、時計を現地時間に合わせていないため、実際には午前10時である。
ホテルのチェックイン時間は14時と表記されていたが、ホテル側の好意なのだろうか、12時には部屋に入れるという。それまでの間、私は周囲をぶらつくことにした。
荷物をホテルに預けて身軽になると、サイゴンに「私の城」ができたように思えて嬉しくなった。ホテルを出て、サイゴン川沿いを走るトンドクタン通りを北方に歩き始めた。(下の写真右方向が北)
ホテルとサイゴン川の間を走るトンドクタン通りは、非常に交通量の多い通りである。近くに信号機はなく、車の切れる気配がない。横断歩道はあるものの、サイゴン川沿いに渡るまで、それなりの時間を要した。
他の通りについては、「恐れず止まらず一定のペースで歩く」ことを心掛ければ、ある程度車の流れがあっても渡り切ることができるのだが、この通りは別格だった。
「トンドクタン通りの向こうからのマジェスティックホテル」
リバーサイド
川沿いのベンチに座った。みんな、数少ない街路樹の影を探し出して休んでいた。私の選んだささやかな日陰は、サイゴンの日差しから身を守るには足りなかった。
昼が近付き太陽が昇るにつれて、南国の本領発揮といった趣である。たまらずに再び歩き出した。
少し北方面に歩くと、兵器のオブジェが置かれていた。兵器は、北方のビエンホア方面に向けられている。つまり、南ベトナム軍から北ベトナム軍側に向けられているのだ。ハノイからすれば、自らに向けられた大砲を、このように置かせているのはなぜなのだろうか。サイゴンの人々は今でも、北に敵対心を持っているのか、それとも誰も気にしていないのか、共産主義政権として思想までも取り締まったハノイの策としてはどうも腑に落ちないところがある。
公式ホームページに記載はないが、マジェスティックホテルですら、「クーロンホテル」と名を変え、共産主義よろしく全てのホテルは同一料金、という時代もあったのだから・・・。
<⑫へ続く>
1000文字で分かる「近藤紘一」 - Witness1975’s blog
(蛇足)
次のような看板を見かけた。「ぎじゅつ」と表記するのは、偽物のクオリティなのか、平仮名なら読める人が相当数いるのか、或いは漢字が多くなると出てくる「中国感」を避けるためなのか、調べたところ、偽物説は消えたものの、その理由が気になるところである。
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サイゴンのちょっと短い日⑩(2018ベトナム訪問記)
マジェスティック
<majestic ・・・威厳のある, 堂々とした, 荘重な. >
このブログのURLには、特に深い考えもなく、「majesticsaigon」という文言を用いた。近藤紘一について言及するブログを始めるに当たって、何か印象的な言葉はないか、と考えたときに、ふと思い浮かんだのがマジェスティックホテルのことだった。
近藤さんは、この「植民地時代から最も格式の高いホテル」のテラスから眺めた景色を振り返り、次のように語っていた。
今も、はっきり覚えている。
あのとき、私は、はるかに連なる緑と水と南国の大空を見渡しながら、自分がいつか必ず、この心広がるような風景の中に戻ってくるであろうことを、予感した。
HOTEL MAJESTIC
安ホテルを出て、サイゴンの街を3時間彷徨った私は、マジェスティックホテルに辿りついた。私は、近藤さんがあのように書くこの場所に、一度来てみたかった。
サイゴン陥落の際にも、それから40年超の月日の間も変わらずにマジェスティックホテルはここに存在したのだ。玄関前に停まるシクロが、タクシーに変わっても。
ドアマンの職責
沢木耕太郎がサイゴンを訪れた時は、日本からFAXで予約を申し込み、料金は八千円であったという。私は、前日と同じようにこの日もホテルの予約をしていなかった。観光シーズンである乾期の金曜日、空き部屋はないかもしれない。
それに、私はホテルの受付で観光用のマップをもらえれば十分満足なのだー、と自分に言い聞かせてから、ホテルのドアに歩み寄った。ドアマンは、五つ星ホテルに入りそうもない格好をした私に対しても、礼儀正しく職務を全うした。
(英語版の公式ホームページがあるのではないか、ということに気が付いたのは、先ほどの事だ。)
チェックインor・・・
カウンターで、宿泊が可能かどうか尋ねると、受付の女性が上役の男性に何かを確認した上で「1部屋だけ空きがある」と言った。一泊160USドルだという。続けて、サイゴン川に面したリバービューの部屋かどうかを尋ねると、「川には面していないが、コロニアル風の静かな部屋」ということだった。
私は、少しだけ迷った。前の2日間の宿泊代は合計で35USドルに過ぎない上、沢木さんの泊まった時から値段が倍になっている。そもそもコロニアルとはどういう意味なのだ・・・と。しかし、空いていた1部屋は、私のための空室だったのではないか、という論理を瞬時に構築し、宿泊の手続きを頼むことにした。
しかし、私は不安だった。昨日、市中のATMでベトナムドンの引き出しができなかったからだ。もし、同じようにクレジットカードが使えなければ、私の財産は帰りの航空券のほかには1万円しか残っていないのだ・・・。
<⑪へ続く>
1000文字で分かる「近藤紘一」 - Witness1975’s blog
※ コロニアル
植民地風、ということで、ベトナムにとっては旧宗主国であるフランス植民地時代の建築様式といえるだろうか。コロニアル様式の建築は,その土地の材料や風土と母国の建築様式の結合に特色がある、という。
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