サイゴンのちょっと短い日⑨(2018ベトナム訪問記)
カラベルホテル
ハイランズ・コーヒーを出て、サイゴンの中心を目指した。私は、近藤紘一の「サイゴンのいちばん長い日」の冒頭に掲げられている地図のコピーを-つまり、今から43年前のサイゴンの地図を手元に携帯していた。
私の元々の興味は、その古地図の中にしかない。そうして街を歩き、細い路地からグエンフエ通りに出ると、大きな建物が見えた。写真左手の高層ビルには、私の知るホテルの名前が掲げられていた。「Caravelle Hotel(カラベルホテル)」だ。
その外観から、ホテルは立て直されたらしかったが、その所在地は紛れもなく、1975年にカラベルホテルが存在していた場所だった。
「家をあげたい」
近藤さんは、情勢が悪化する中でも下町の長屋に起居していたが、1975年4月24日に
カラベルホテルの503号室に移った。いつ何時、北ベトナム軍の砲弾が撃ち込まれるやもしれぬビエンホア方面に窓を向ける北側の部屋を避け、現在ドンコイ通りと名を変えたツゾー通りに面した部屋だったという。
この日、近藤さんは老政治家に家の寄贈を持ちかけられたことを述懐している。
それにしても、赤の他人からいきなり「家をあげたい。よかったら引き取ってくれないか」などと頼まれることはこの先私の生涯で二度とあるまい、と思った。
そのとき、サイゴンの危機は目前に迫っていた。
変わりゆく街
地図によれば、まっすぐ歩いていけばツゾー通りにぶつかるはずだったが、行く手は工事によって阻まれていた。後になって気付いたことだが、私が先ほど抜けてきた細い路地は、本来は大通りであるはずの「レロイ通り」だったのだ。細い路地にも関わらず高級ブランドのショップが構えられていたのには、もっともな理由があったということになる。
そこかしこで地下鉄の工事や、通りの再整備をするために大工事が行われているらしい。成長を続けるこの街は、今も大きく変わりつつある最中なのだ・・・
<⑩へ続く>
1000文字で分かる「近藤紘一」 - Witness1975’s blog
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