Witness1975’s blog

サイゴン特派員 ジャーナリスト近藤紘一氏について

サイゴンのちょっと短い日⑤(2018ベトナム訪問記)

majesticsaigon.hatenablog.jp

 

Ten thousand

 

 ミンさんから「USドルでの支払い」を請求された私は、ついに来たか、と思った。そして、語気を強めて「ベトナムドンで支払うと言ったはずだ」と言ったところで、私が一つ思い違いをしていたことに気がついた。

 バイクに乗る前、私は「I pay only ten thousand VietnameseDong!(1万ドンしか払わないよ!)」と言ったのだが、私は頭の中で最初10万ドンを支払うつもりでいた。10万などという数を英語で表現したことはないから、英語の表現を誤ったのだ。

 ミトーサイゴン間の往復距離は約150キロである。ベトナムの物価が安いとはいえ、これだけバイクに乗って1万ドン(50円)や10万ドンで済ませるのは虫が良すぎると思えた。「メコン・リバー」に向かって走り出す際に値段を確認しなかった私に落ち度があったのだ・・・一方、10000USドルといえば100万円を超える大金である。ミンさんも、いつもの習慣で「USドル」と言っているものと思えた。

 

ネゴシエイト

 

 一瞬で頭を巡らせた私は、筆談用に準備していたメモ帳に「100万ベトナムドン(約5000円)」と書いた。缶ビールが75本も買える額だが、ミンさんの要求額はこれを上回る150万ベトナムドンだった。私が110万と書き、ミンさんが140万と書き、私が140万を125万に訂正したところで握手を求め交渉は妥結した。

 日本に帰り、「地球の歩き方」を眺めると、地方部でのタクシーは1km1万ドンが一つの目安とあったから、ミンさんの要求額も相場外れの額ではなかったのかもしれない。私が妙な手段でミトーを訪れてしまったのが、少なくとも金銭的には失策だった、ということに尽きるのだろう。

 額が定まると私たちは、炎天下の国道を1号をサイゴンに向かって走った。値段交渉の後も、ミンさんは道路脇に見つけたライ麦畑や、ココナッツや、グリーンバナナのなる木などを見つけては、私に教えてくれた。

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マオ・ハイ・バー・ヨー!

 

 私は予定外の出費に少し気が滅入ったが、勉強代と考え気持ちを切り替えることにした。一緒にビールを飲もうという約束を守るため、サイゴン中心部からちょっと離れたオープンエアーの飲み屋に向かい、私たちは乾杯(マオ・ハイ・バー・ヨー)をした。

 ミンさんはベトナムのビール「333」は飲むと頭が痛くなるので、シンガポールのタイガービールが好きだと言った。

 私の英語力で聞きとれるのは全体の4割程と思うのだが、ミンさんは、現役の兵士時代はカンボジアに従軍していたという。爆弾の爆発に巻き込まれときの古傷を見せ、サイゴンに帰ってこれて幸せだ、と言った。帰ってこれなかった仲間も、たくさんいたという。

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 その時期は確認しなかったが、ベトナムカンボジアに侵攻して、ポル・ポト極左ファシズム体制を打倒したのは1979年1月のことだった。ミンさんが17歳の青年兵として参加していた可能性もないとは言えないだろう。

 ミンさんは何度も、サイゴンはいい街だ。戻ってこれて幸せだ、と言った。

 

 

タイガービール 瓶 330ml×6本

タイガービール 瓶 330ml×6本