Witness1975’s blog

サイゴン特派員 ジャーナリスト近藤紘一氏(1940-1986)について

あの日 あのとき サイゴンで

世界新記録の瞬間

 昨日の昼にふとテレビをつけると、1977年9月3日に、放物線を描いてライトスタンドに飛び込んだボールの映像が流れていた。世界最多本塁打の記録を更新した、王貞治の通算第756号ホームランの瞬間である。

 そのテレビ番組のテロップがずいぶんと昭和風であることに気づいて番組表を確認すると、それはNHKの「あの日 あのとき あの番組」という番組で、NHK保有するものからあの日、あのときの映像を流しているのだ。私が見た映像は「特集 王貞治~初公開・新記録達成までの日記」という、1977年9月4日に放映された映像そのものだったのだ。

 

NHKドラマ サイゴンから来た妻と娘

 近藤紘一の「サイゴンから来た妻と娘」は、NHKの「ドラマ人間模様」という番組で、1979年に4週に渡ってドラマ化され、放送されたことがあるらしい。

 NHKのHPによると、「・・・1976(昭和51)年にはじまった『ドラマ人間模様』は、優れた脚本家や演出家が「社会や人生の断面を切り取り、人間の生き方を深い視点でとらえよう」と感動的な数々のシリーズドラマを生み出した(~1988年3月)・・・

幸福に見える現代の家族の実像は多様である。橋田壽賀子の『夫婦』、宮本研脚本の『サイゴンから来た妻と娘』、山口瞳の自伝小説『血族』、向田邦子の自分史による昭和の家族の肖像を目指す『あ・うん』『続 あ・うん』の連作シリーズなどは家族や夫婦の赤裸々な内面や葛藤を真正面から掘りさげ、豊かなドラマ世界を展開した。視聴者もまた自己の家庭や家族の歴史に思いを馳せるのか、共感をよび反響は大きかった。」と記載されていた。この番組を見ることはできないのだろうか・・・残念ながら、いまのところ放映予定は示されていなかった。

 

サイゴン陥落の記録

 ドラマについて調べていると、NHKアーカイブスというHPに辿りついた。そこでは、NHK保有する映像が約15000点閲覧できるという。私はそのHPに用意された検索窓に、「サイゴン」と打ち込んだ。ヒットした映像名には「サイゴン陥落の記録」とあった。近藤紘一があの日、あのときに見た景色と、同じ空気を記録した映像が記録されているのか・・・と、表示されたリンクをクリックした。

 

 

 サイゴンからメコンデルタ方向に上がる煙、ヘリコプター、悠々と入城する北ベトナム軍、倒される南ベトナム兵士像、解放に困惑し、あるいは歓喜する人々・・・それは間違いなく、サイゴン陥落の一場面だったのだろう。

 その映像が貴重なものであるように、そこに映されなかったことを持ち帰った近藤紘一の記憶や感情もまた、貴重なものなのだ、と思う。ジャーナリズムの使命が事実を伝えることにあるなら、小説の、つまりフィクションの一つの役割は、生の事実では伝えることのできない、或いは伝わりすぎる事実を、抽象化し昇華して人々に示すことではないか。開高健は、近藤紘一にそれこそが君の使命だと伝えたものの中にはノンフィクションに収めきれない「何か」も含まれていたのではないか。時の経過による熟成が、きっとそうした作品が生み出していたに違いない、と思う。

 

 

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サイゴンのいちばん長い日 (文春文庫 (269‐3))

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