Witness1975’s blog

サイゴン特派員 ジャーナリスト近藤紘一氏について

書評 これならわかるベトナムの歴史Q&A

 

これならわかるベトナムの歴史Q&A

これならわかるベトナムの歴史Q&A

 

 

 この本の執筆目的は、複雑怪奇なるベトナムの歴史を、できる限り平易な言葉で、わかりやすく記述することにあったと思われる。しかしながら、その目論見は失敗に終わっていると言わざるを得ない。わかりやすくしようとしてわかりづらくなってしまったものの典型例の一つではないか、と思う。

 

 また、タイトルにも偽りがある。ベトナムの歴史と銘打ちつつも、少なくない部分が

ラオスカンボジアなどの周辺諸国に関する記述に割かれている。ページ数の割に記述量が少ないことも相まって、ベトナムに関する情報量が絶対的に不足している。

 

 さらに、Q&A方式を採用したことが災いしたのか、記述は時系列でもなく、国別でもなく、歴史の流れというものが全く伝わってこない点が致命的である。

 

 中学校の教諭でもある筆者は、中学生にも分かりやすくと心がけたに違いないが、教え諭すような語調で書くことを意識したためか、文章が中立的でないきらいがある。「・・・だったのです。」と書かれる部分も、疑問符が付く個所が目立つ。例えば、本来、ベ平連に言及するとすれば、「ベトナムに平和を」のスローガンとともに、ソ連KGBとの関係にも立ち入らねばなるまい。

 

 そして、最大の欠点は、わかりやすくするために情報量を絞った点にあるのかもしれない。要約すると、重要な細部が抜け落ちるという。重要なことはここには書かれていないのではないか。

 

  サイゴンが陥落したということは、歴史的な事実には違いないが、1975年に暮らした人々のことまでも想像できなければそれは真の歴史とは言いがたい。もっとも、「よくわかる」と題された本書にそれを求めるのは酷なことであると言えるかもしれない。

 

 だがいずれにしても、本書に書かれているものは、無残に散りばめられた部分的な事実である。ベトナムの歴史に触れる良書が他に存在するはずだ。良書を御存じの方がいれば、ぜひ御教示願いたい。